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「薩長軍? 亡霊?」
どこからつっこんでいいのか分からない!
とりあえず相手の素性を知ることが先決だろう。
「じゃああなたは何なんです?」
「俺は」
侍の格好をした青年は一度言葉を切ると、颯真をまっすぐに見つめ続けた。
「会津藩士丹羽(たんば)時正(ときまさ)が嫡男、丹羽時風(ときかぜ)兼芳(かねよし)」
何だか長くてよく分からない。
「あの、どれが名前ですか?」
「……時風だ」
相手は呆れ顔である。
「俺は会津戦争で命を落とした。――俺もこの世をさまよう亡霊だ」
時風はすごいことをさらっと言うと、すぐに冷ややかな視線に戻る。
「はあ」
颯真は気のない返事しかできなかった。まだ夢は続いているのだろうか。
侍の幽霊が、今目の前で自分と話をしている。こんなことがあっていいのだろうか。
何だかどっと疲れが出て、颯真は踵を返した。
「……もう帰ります」
力なく歩き出す。
濡れた体が気持ち悪い。夢なのになぜ、こんなにもリアルに感じるのか。いや、考えることも面倒だ。
もう早く帰りたい。
颯真は死んだ目をしながら、家に帰りたいという一心だけで足を動かすのだった。
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