序 ―戦の果て―

2/2
前へ
/130ページ
次へ
 悔しかった。ただただ、悔しかった。  歯を食いしばり、前方に待ち受ける敵兵を睨み据えた。  なぜ会津がこんな仕打ちを受けなくてはならないのか。なぜ賊軍の汚名を着せられているのか。  砲弾に人が飛ばされる。  銃弾が頬をかすめて皮膚を割く。味方の兵たちが次々に倒れていく。  それでも足を止めなかった。  憎き相手へと刀を振るい続ける。  血を吸った刃が重くなり、腕に鈍い痛みが走り始めても。  敵を斬って斬って、斬りまくった。一人残らず殲滅する、そのつもりで。 これは仇でもあるのだ。愛しい人の死を聞き、佐川官兵衛指揮のもと、城外に突撃することを決めた。生き残ることは考えていない。死ぬ覚悟だった。  ふいに、脇腹に激痛が走る。  銃弾が貫いていったのだ。鮮血が噴き出すのが分かった。腕に、足に、立て続けに被弾する。それでも刀を手放すことなく、戦い続けた。  再び鉄砲の音が鳴り響き、気が付くと、地面が目の前にあった。  柄を握り直そうとしても、力が入らない。うつぶせに倒れたまま、体にも力が入らなかった。血が抜けていくとともに、意識が遠のいていく。死ぬのだと悟る。  しかし、あの世で彼女に顔向けできるだろうか。  また会おうという約束も果たせないまま。共に戦うことを誓い合ったのに、結局むざむざと彼女を死なせてしまった。  愛しい人の名を呼ぶ。答える声はない。  意識が闇に沈んでいく――。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加