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「びびってないよ。こんなくだらないことして時間の無駄だって言ってんの。暑いし」
「夢がない奴だな。それじゃ人生つまんねぇじゃん! もっとこう、楽しく生きようぜ!」
颯真は呆れてしまった。
無駄なことはしない派の自分にとって面倒なことこの上ない。なぜ自分はこの柴犬男子に懐かれてしまったのだろうか。柴犬女子だったならまだしも。
といっても、彼といることで、こちらにもメリットがないわけではないのだ。だからこそ、強く拒むこともなく、こうしてつるんでいるのである。
「しっかし俺とお前って性格ぜんっぜん違うよな。何で仲いいんだっけ?」
考えていることは相手も同じだったらしい。
本気で首を傾げる友人を一瞥しただけで、颯真は何も言わなかった。
県内有数の進学校に通う颯真だったが、今年入学して以来、無気力に日々を過ごしている。いや、無気力は今に始まったわけではないのだ。
文武両道でも有名な橘(たちばな)高校。通称花橘(はなたちばな)と呼ばれ、周りからは一目も二目も置かれている高校だ。この高校で、心機一転、中学までの、生ける屍のようだった自分とはおさらばだ、と希望を抱き、憧れの校門をくぐった。
偏差値六十五以上と言われている超難関高校に進学したはいいものの、周りが優秀すぎて、正直ついていくのがやっとだった。高校最初の中間審査も、真ん中から下という、陰惨な結果に終わった。
中学では常に学年トップをキープしていた颯真にとって、崖から突き落とされた心地がしたものだ。――決して大げさな言い方ではなく。
何となく分かってしまったのだ。
橘高校には、秀才だけではない、天才が多くいる。その中で凡人の自分が努力をしても無駄だろう、と。
「お前は気楽でいいよな。悩みなさそうだし」
「あのさ、逆にもっと気楽に考えろよなー。まだ一年の夏休みだぜ? 何を悩んでいるというのだね、君は」
のん気に言ってのける友人を恨めし気に見遣った。そう言う裕一は、進学校中間審査の上位に君臨している強者である。
傍目からは必死さを感じないし、むしろ楽天的に映るのだから、もはや才能としか言いようがない。
腹を立ててもそれこそ無駄だと思い直し、颯真は立ち止まった。
懐中電灯が照らしたのは白い鳥居だ。鳥居といえば朱や緋を想像するが、土津神社の鳥居は白なのだ。
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