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遠くで雷鳴が聞こえ出したのは、杉木立に囲まれた闇道を歩いているときだった。
昼間であれば、墓所まで続くゆるやかなまっすぐな道は風情があり、よく晴れた日は木漏れ日が降り注いでとても気持ちがいいのだが、今はただ不気味さだけが漂っている。
「雨降りそうだな」
颯真はぽつりと言う。
心なしか空気に湿った匂いが混じっているように思えた。
「急ごうぜ、墓所まであと少しだし」
「やっぱり行くのか」
面倒だなと再び思いつつ、颯真は足を止めることなく進む。
そのときだった。
ぽつりと頬に雫が当たる。
雷鳴も徐々に近づいてくる。
「よし、帰ろう」
颯真は即Uターンする。濡れるのは嫌だ。
「くっそー。次リベンジな!」
それも嫌だったので、返事をせずに元来た道を戻ろうとする。――と、辺りに稲光が走った。明るくなった一瞬、妙な違和感を覚える。
「今、誰かいなかったか」
「ちょ、やめてよね。早く帰ろう颯真くん」
裕一はわざと女子っぽく言うと、我先に歩き出す。
すると突然、どこからともなく笛の音が聞こえてきた。
甲高いわけでもなく、低いわけでもない笛の音が辺りに染み入るように不気味に奏でられる。
日本独特の音色だけが、不気味に近づいてくるようだった。
しかしよく耳を澄ましていると、どこかで聞いたことのあるような旋律だった。
「この笛の音……時代劇で、ちらっと聞いたような」
「確かに。言われてみれば……な、なんだよ……気味悪いな」
裕一にも聞こえているらしい。彼は真顔になり、辺りを見回していた。
音だけが闇に響き、とても異様だった。
再び稲光が注いだ後で。
「わぁ!」
急に裕一が声を上げた。
「どうした?」
「今……見えた。たくさんの人影」
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