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裕一が木々の間を凝視しながら言う。
颯真は指さす先へと懐中電灯を這わすが、特に何もない。
「おい、ふざけてるのか」
「今の状況で嘘なんかつくかよ! ほんとに見たんだって! 俺ら囲まれてるのかも……」
「気のせいだろ」
「だからマジだって!」
怯えながらも、興奮気味に裕一が言ったときだった。
懐中電灯が急に消えた。スイッチを何度押し直しても点く気配はない。
笛の音は止まることなく流れ、少しずつ少しずつ距離を詰めるように音が大きくなっていく。
「ほんとにやばいかも」
さすがの颯真も頬を引き攣らせた。
「だ、だよね。ここはさ、ほら、せーの」
裕一が息を大きく吸い込むのが分かった。
「出たぁぁぁぁ!」
裕一は叫び出すと、一目散に暗闇の中を駆け戻っていく。
あっという間の出来事に、一人残された颯真は唖然とした。
「何なんだよ一体」
いくら目を凝らして見ても、闇が広がるばかりだった。
まったく薄情な友人である。
だいたい肝試しをしに行きたいと言い出したのは裕一のほうだ。
そう思いながら颯真も足を速めたとき。
不意に笛の音がやんだ。
背後に気配を感じ、颯真は硬直した。
確実に誰かがいる。
それも一人や二人の気配ではない。まるで大勢の……。
おそるおそる振り返ってみて――颯真は目を見張る。
闇に浮かぶ青白い影。
動きを止めてよくよく見れば、彼らは時代錯誤な格好をしていた。
顔が隠れる三角の笠、黒の古風な洋服に、ズボン。そして、胴には白の帯を締めている。その手には古めかしい鉄砲が握られている。
闇夜に浮かび上がる、青く縁どられた不気味な姿はまるで、幕末に会津に攻め入ったとされる官軍のようで……。
「ふっ嘘だろ……」
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