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面白くもないのに引き攣った笑いが漏れる。
生身の人間ではないことは見てあきらかだった。
体は硬直してしまっているのに、自分の目ははっきりと彼らの姿を映していた。
どこか夢を見ているような気分で、颯真はただただ唖然として立ち尽くしていた。
稲光が再び辺りを照らす。
すると時が動いた。
中心にいた男が鉄砲をこちらに向けたのだ。猟銃のような長い鉄砲を肩にかけるようにしてかまえている。
あの鉄砲は、前に博物館で見た、幕末期に官軍が使っていたとされる鉄砲ではないだろうか。――名前は思い出せないけれど。
現実味のない中で、そんなことを思っていると――。
銃口が火花を散らした。
弾丸が頬をかすめていく。それは一瞬の出来事だった。
そっと頬に触れる。生ぬるい感触、血だと気づくのに少し時を要した。思い出したようにじんじんとした痛みが頬から意識へと流れ込んでいく。
「う、うわぁぁ!」
颯真は境内へと駆け出す。
一体何だというのか。これは夢なのだろうか。現実だなんて信じたくはない。
ざぁっという音とともに、雨が大地を濡らしていく。雷鳴が激しくとどろいた。
あっという間にずぶ濡れになったが、足を止めるわけにはいかない。
青白い影たちの足音が追ってくる。
「くそ!」
悪態をつきながら駆けるが、ゆけどもゆけども境内にはたどり着かない。ずっと木々に囲まれた道を、まるで狐に化かされたかのように走り続けていた。
そしてとうとう、ぬかるみに足を取られ地面に手をついてしまった。
まるでお決まりの展開である。
颯真はとっさに振り向いた。
「まじかよ」
颯真に対して皆一様に鉄砲を構えている。三角の笠を目深に被っているため表情は見えないが、正気の沙汰ではないことは容易に分かる。殺気を痛い程に感じるからだ。
雨で煙る中、青白く浮かび上がる時代錯誤の人間たち――いや、亡霊だ。彼らは生きた人間ではない!
「何だよこれ」
颯真は顔を引きつらせる。
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