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その時、入り口のドアが開いた。
「あ!川口先生!」
拓哉が川口の元へ駆け寄った。
「長谷部さん、元気にしてたか?」
拓哉は満面の笑みで頷く。そんな拓哉の頭を川口は優しく撫でた。
長谷部拓哉の家は父親がパチンコと酒で作った借金のため非常に困窮していた。その上に日常的な暴力、子供のお小遣いの着服が行われるなど、拓哉達の生育にとって長谷部家は極めて劣悪な環境であった。
そんな中、当時拓哉の担任であった川口の機転で拓哉の父親はパチンコ依存の回復施設へ入所。次いで川口は経済的困窮を和らげるべく市役所の生活相談課と連携して拓哉達をこども食堂に繋げた、という経緯がある。
「そういえば先生、この間手紙が届いたよ」
「手紙って、お父さんからか?」
「……うん。いつか病気から立ち直って、ちゃんと謝りに行きたいってさ」
拓哉は複雑そうな顔をした。
「そうか。まあ会いたいと思ったら会えばいい。その時が来たらまた考えよう。それよりも長谷部さん、君自身が元気に暮らすことが一番大切だよ」
拓哉は笑顔を取り戻し、頷いた。
「川口先生、ところでこの2人は?」
拓哉は早織の方を向き、その後歩美の方に顔を向けた。
「あ、ごめんごめん。今日はな、この子を連れてきたんだ。そして、こっちがこの子のクラスの担任の先生だ」
そう言って川口は早織と歩美を紹介する。
「……橋本歩美です」
ややこわばった声で歩美は拓哉に言う。拓哉は5年生。2年生の歩美にとって3学年の差はかなり大きいようだ。
「私は橋本さんの担任の小宮です。橋本さんは2年生なの」
「へぇ。2年生なんだ。じゃあ鈴の隣で食べれば?鈴も2年生だし。ほら、あそこ」
拓哉はブロッコリーにフォークを刺して口に運んでいる鈴の席を指差した。
歩美が鈴の隣に座ると、程なくして拓哉が料理を運んできた。
「この子、歩美って言う子。鈴と同じ2年生なんだってさ。よろしくな」
拓哉がそう言うと、鈴は無言で頷いた。
「じゃあ、あとはよろしくね」
そう言うと、早織と川口は部屋をあとにした。
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