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4、トマトジュースと完璧主義
公民館の駐車場には車がまばらに停まっている。奈々美はその一角に車を停めた。
時刻は午前11時40分。普段の奈々美ならこの時間になってようやく起きて来る頃だ。それほどまでに現在勤めている工場での仕事は奈々美にとって激務なのである。そしてそのことは歩美も普段から感じ取っていた。
しかし、今回は歩美が「絶対一緒に行きたい!」と珍しくダダをこねた。そのため眠い目をこすりながらメイクをし、車を飛ばしてきたのである。
公民館の調理室前のホワイトボードにはメニューとトマトの絵が描かれていた。
本日のメニュー
オムライス
コンソメスープ
生野菜サラダ
歩美と奈々美がドアを開けると、出迎えたのは寿人だった。
「あ、歩美ちゃんこんにちは」
そう言った寿人は白い歯を見せて歩美に笑いかけた。そんな寿人に歩美も笑顔を返した。
「あ、歩美ちゃん」
そう言って手を振ってきたのは鈴だった。歩美は鈴の元へと走って行った。そんな歩美に奈々美は引っ張られるようについて行く。
歩美の居るテーブルを囲んでいるのは4人。歩美と鈴、奈々美、そして奈々美より少し年上と思われる女性だ。
拓哉が奈々美と歩美のもとに料理を運んできた。
オムライスにはケチャップでウサギの絵が描かれていた。
奈々美はオムライスを口に運んだ。
半透明な玉ねぎの甘さが口の中に広がる。卵は薄味だが、チキンライスの塩加減とバランスがしっかり取れている。
街の洋食屋に比べれば確かに劣る。でも温かさが口元に広がる優しい味だ。
歩美と鈴が仲良さげにケラケラと笑っている。そんな2人を奈々美は安らかな顔で眺めていた。
「どうですか?お味は」
奈々美の脇にやって来た寿人が尋ねる。
「ええ。美味しいですよ。でも、これだけの人数の食事をたった2人で作るのは大変じゃないんですか?ましてやオムライスってやること多いじゃないですか」
奈々美は寿人に尋ねた。オムライスが出来るまではやることが多いのだ。玉ねぎや鶏肉は細かく切る必要があるし、チキンライスを炒める必要もある。その上卵を焼いて……手間がとにかくかかるのだ。
「あ、このチキンライスですか?これ、慣れれば簡単に作れますよ!しかも、フライパンを使わずに」
「そうなんですか?」
フライパンを使わない、その言葉に奈々美は耳を疑った。
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