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「ええ。妻が見つけて来たんですよ。このやり方。よかったら後でお教えしましょうか?」
奈々美は目を輝かせて頷いた。
歩美と鈴はまだ一緒に遊んでいるようだ。奈々美は食事を終えるとそっと席を立ち、寿人の妻、ひかりのもとへと向かった。
「すみません。このチキンライス、フライパン使ってないんですか?」
「ええ。そうですよ」
奈々美の問いにひかりはさらりと答えた。
「そんなこと、できるんですか?できるなら教えてもらえますか?」
奈々美は聞いたことのない話に興味津々だ。
「ええ。これを使うんです」
そう言ってひかりが出したのは3分の1くらい入っているトマトジュースのボトルだった。
奈々美は絶句した。トマトジュースで炊き込むという発想は奈々美の想像の斜め上を行っていた。
「ネットの料理サイトにも載ってますよ。玉ねぎと鶏肉を切ったらあとは炊くだけ。水加減はちょっと難しいですけど、そこがクリアできればオムライスを作る時間、大幅に短縮できるんです。仮に味が薄かったときは塩コショウとケチャップで調整できますしね」
笑顔でそう言ったひかりは、下げられた食器を手際よく洗っていく。
「大変でしょう?」
奈々美はひかりに尋ねるが、ひかりは首を横に振る。
「手を抜けるところは手を抜いてますから。それと、私にできないこと、手が回らないことは他の人に頼んでますしね。たとえば「りえぞん。」ですと、場所探しは友達に頼みましたし、経理は主人にやってもらってますし。で、私は食材の準備をする、みたいに」
「分担がうまくいっているんですね」
「全部抱え込んで、全部完璧にやろうとしたら、倒れちゃいますよ。それか、完璧にできない自分を責めすぎるあまり何もできなくなっちゃう」
全部完璧にやろうとしたら、という言葉を聞いて、奈々美ははっとした。
3年前のことを思い出したのだ。
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