終章 、願い

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終章 、願い

年が明け、1月最後の水曜日の夜。「りえぞん。」が開かれているいつもの調理室に早織がやって来た。 「あら、お久しぶりです」 ひかりが笑顔で迎える。寿人は遠くでテーブルを拭きながら早織に一礼をした。 「実は、ひとつご報告があって」 そう言って早織はスマートフォンをひかりに見せた。 「これは?」 「橋本さんが冬休みに描いてきてくれた絵です」 早織のスマートフォンに描かれていたのはオムライスだった。しかし、調理室の食器とは違う色の皿に盛られていた。 「どうも、奈々美さんが作ったらしいんですよ」 と、笑顔で早織が報告する。 1人で抱え込むのをやめる。無理をするのをやめる。奈々美はそう決意した。奈々美は法的扶助制度を使って弁護士を擁立。未払い分も含めて元旦那から歩美の養育費を取ることに成功した。 奈々美が今まで養育費の請求をためらっていたのは、元姑からの嫌がらせを恐れていたからだった。 今回も案の定嫌がらせの電話はかかってきた。やっぱりアンタ1人では何もできないとネチネチ言われたこともあれば、息子が汗水垂らして稼いだ金をかすめ取って楽しいか?と言われたことも。 しかし今回、奈々美はそれらを全部録音し、弁護士に提出した。弁護士が元姑に1本電話を入れたら、それも完全に止んだという。 月々3万円の養育費が入り、働き方も変わった。収入に余裕のできた奈々美は職場の直属の上司に願い出て、週2回のノー残業と隔週の土曜日の休みが認められた。本来奈々美は非正規雇用。本来ならばどこの職場もこのくらいの融通をきかせられるべきなのだ。 こうして奈々美は、余った時間を休養、家事、そして歩美とのふれあいに当てられるようになった。
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