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「ひかりさん達の活動があったから、橋本さん親子はいい方向に進んだんだと思います。もっとこういう活動、広まっていって欲しいですね」
にこやかに早織が言うと、複雑そうな顔でひかりは首を横に振った。
「私の、いえ、私と寿人の本当の願いは、この活動が一切無くなることなんです」
「え?どうしてですか?」
早織は驚いて尋ねた。
「多くの子どもの経済的貧困、心の貧困を救う可能性のある取り組みだからもっと広がって欲しい。これはよく言われます。でも私たちの活動が広まるということは、『貧困で苦しむ子どもが大勢居るんだ』ということの裏返しなんですよ。そして『今の社会が、その子達を助け合える社会ではない』ということの裏返しでもあるんです。私たちの願いは、そんな子ども達が居なくなることであり、仮に居るとしたら自然と、当たり前に連携して助け合える社会になること。そして、『助けを求めること』を『恥ずべきこと』とする不文律をなくすこと。そこなんです」
早織の表情が曇った。順調に国立の大学を卒業し、学費もすべて親に払ってもらった早織には想像すらして来なかった次元の話。しかしその次元は映画のスクリーンの中にあるのではなく、現実にあるものなのだ。
早織は再び笑顔を作った。
「それでも私は広まって欲しいです。だって、そこに苦しんで居る人がいるのが現実なんですから。だから、私は2人を応援します!」
早織がそう言うと、ひかりも笑顔を返した。
「こっちは終わったよ。そろそろ帰ろうか」
寿人がひかりに声をかけた。ひかりは頷き、帰り支度を始める。
「次回のメニュー、どうする?」
寿人はひかりに問いかける。
「恵方巻にしない?節分だし。みんなで丸かぶりして幸せをつかむ。良くない?」
ひかりがそう言うと、寿人は笑顔で頷いた。
季節は真冬。しかし、ほんの少しずつでも春が近づいてきてほしい。
早織は心からそう願っていた。
完
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