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「……よく話してくれたね。ありがとう。小宮先生はまだ1年目だよな?だからうまくいかないことがあって当然。子どもに対する誠実ささえ忘れなければ、あとはトライアンドエラーを重ねて成長すればいいのさ」
「でも……」
川口の温かい言葉を受けても、早織の表情は依然として暗いままだ。そんな早織に川口は強い口調で言葉をぶつけた。
「起きてしまったことをいくらくよくよ悩んでも前には進めない。このできごとをどう収拾させるか、あわよくばこの出来事をプラスに転じる方法はないのか、考えて行動するんだ。失敗はしてもいい。でも、そこで立ち止まるのは良くないぞ」
早織は無言で川口の表情に視線をぶつける。その視線はどこか憂いを帯びている。
「私に一つ、心当たりがある。確かもうそろそろだったな?橋本さんの家の個別懇談」
「……はい」
早織が不安げな返事をしたその時、川口は1枚のビラを机の引き出しから出し、早織に見せた。
「もし小宮先生にその気があるのなら、橋本さんのお母さんにこれを提案してみるといい。きっと橋本さんにとっても、お母さんにとっても、プラスになるはずだ」
そう言うと川口は早織に笑ってみせた。早織は腹を決めたのか、視線を川口からそらさぬまま頷いた。
季節は晩秋。窓の外はもう暗くなり始めていた。
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