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「それで、結局橋本さんはどう思ってらっしゃるんですか?今の小宮先生の報告を聞いて」
川口が話に割って入った。
「どう思ってるって……腹が立ってるわよ」
「それは小宮先生の苦言を聞いて、ですよね。娘さんが泣いていた件について質問しています」
川口は再び冷静に問いかけた。
「そんなことに構っている暇は……」
「そんなこととは何ですか!橋本さんにとってはそんなことでも、娘さんにとっては重大なことなんですよ!」
川口は奈々美の発言を遮り、きつく叱りつけた。
「何よその言い草は!大体歩美を泣かせるような課題を突きつけたこの女が悪いんでしょう?」
「泣かせるような課題。橋本さん、今はっきり仰いましたね。ということは橋本さん、あなたはこのような課題が出されたら娘さんが悲しむことを想定していた。ということは、普段から娘さんを傷つけている、という認識があり、寂しい思いをさせている、と理解しており、相当な後ろめたさを感じている。違いますか?」
「それは……」
奈々美は言葉を詰まらせた。川口の気迫に圧倒されたからだけではない。ほかの何かが反論を思いとどまらせた。
しばらくして、奈々美は早織と川口から目をそらした。そして言葉を絞り出し始めた。
「じゃあどうすればいいのよ。朝7時半に出勤して帰るのが夜8時半、この位は当たり前。ひどい時にはもっと遅い時もある。しかも工場だからずっと立ち仕事で足はフラフラ。家に帰ったらもう立つ気力もないのよ。でも時給800円の仕事ではこの位頑張らないと子どもの将来の学費すら貯められない。アンタたちには分からないだろうけど」
そこまで話した奈々美は再び押し黙った。
「サッカー」
川口が不意に発した。奈々美と小宮が川口の顔に視線を移した。
「あ、いや、サッカーの試合で、片方のチームが11人いて、もう片方のチームが10人だったら、試合はどうなるかな?と思って」
「川口先生、どうしたんですか?いきなり」
小宮が川口に問いかけた。
「小宮先生、どうなりますか?」
小宮の質問には答えず、川口は再び問いを投げかけた。
「……当然11人の方が有利でしょうね」
小宮は釈然としないまま答える。
「じゃあバスケットボールならどうですか?5人のチームと4人のチーム、どちらが有利か」
「当然5人のチームでしょうね。しかも元の人数が少ない分、差は大きくなると思います」
小宮は怪訝そうな表情で答えた。
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