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3、可愛いニンジン
本日のメニュー
チキンカレー
温野菜のサラダ オーロラソース
この文字の周囲がイラストで埋め尽くされている。
「これで、よし」
寿人は入り口のホワイトボードから3歩後ろに引いて全体を眺めると、そうつぶやいた。
水曜日の夜はこうやって子供たちを迎えるのが寿人とひかりのルーティンだ。
「あー!にわとりさんだ!」
ホワイトボードの文字の隣に描かれた鶏の絵を見て、女の子の歓声が挙がった。女の子の名前は長谷部鈴。小学2年生だ。
「そうだ!にわとりさんだぞー!」
寿人は自分の頭の上に両手でトサカを作った。鈴はそれを見て笑っている。
「来てくれてありがとう。中に入って待ってて」
「うん」
鈴はそう言うと、ホワイトボードの隣のドアから部屋の中へと入っていった。
鈴がドアを開けて中に入ると、カレーの独特な香りが漂って来る。部屋を見渡すと目に入るのは調理台と10個ほどの四角いテーブル。調理台ではエプロンを身につけ頭にバンダナを巻いた寿人の妻、ひかりがカレー鍋をおたまでかき混ぜていた。ほかの子供達も続々とやって来ている。
「いい匂い」
「もうちょっと待っててね」
ひかりは笑顔で鈴に言う。
公民館の1階にある調理室。寿人とひかりが運営する「こども食堂 りえぞん。」はこの場所で開かれている。開設当初は食べに来る子供も少なく、近くの教会の一室を借りて行っていたが、次第に手狭になってきたため公民館を借りることにしたのだ。
「鈴、もうちょっとで持っていくからな」
ひかりと同じくバンダナとエプロンを着けてそう言ったのは鈴の兄、拓哉だ。拓哉は小学5年生で、今年の2月から通っている。本来はこんな手伝いなどする必要はないのだが、本人がやりたいと言っているので寿人とひかりはあえて手伝わせている。
拓哉は鈴の元へカレーとサラダを持っていった。鈴はスプーンを手に取り、目の前に置かれたカレーに手を伸ばした。
口もとにカレールーを付けて笑っている鈴。それを見て拓哉も笑っている。
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