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僕は夢の中で何度も死体を見てきた。
だから僕は今日の様な凄惨な死体を見ても、全く恐怖を感じないのだ。
動脈血のあの鮮やかな赤色も、未だ頬に残る生暖かい不快感も──僕が何度も夢の中で見てきたものと何一つ変わらなかった。
僕は毎晩夢の中で名も知らぬ女性の自殺現場を目撃している。
ある時は首吊り、またある時は焼身、またある時はオーバードーズ…。
いつから僕がこの悪夢に悩まされているのかは分からない。何十回、何千回、何万回…もはや数えるのが億劫になるほど、僕は彼女の死を見てきている。
もがき苦しむ彼女を傍観することしかできない僕は、いつも心臓がはち切れてしまいそうな焦燥感で目覚める。それに比べて現実の死体など、ただの無機物な肉の塊にしか見えない。
「そういえば、秋桜さんのプレゼントとか考えたのか?」
「えっ?」
突然の汐の問いかけに僕は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「えっ?じゃなくて。来週お前の彼女の誕生日だろ。何あげるのか決めたのか?」
「いや、別に。」
僕がまた冷然な態度で応えると、汐は突然僕の手から携帯を取り上げた。
「何すんだよ、返せよ。」
僕が尖った口調で言うと、汐は画面を一瞥した後、すぐに携帯を僕に返した。
「…なんだ。らしくないな、汐。」
僕はすかさず携帯の電源を切り、左ポケットの奥深くに押し込んだ。
いつもは喧嘩っ早い汐が今日はやけに冷めている。
「また真美さんと連絡取ってたのか。」
汐は僕をじっと見つめて、冷淡な口調で僕を詰る。
「…汐には関係ないだろ。」
僕はそう吐き捨てて汐の横を早足に通り過ぎる。
彼はまた僕の肩を掴み、引き留めるようなことはしなかった。
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