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僕が教室に入ってきた途端、話しかけてきたのはクラスメイトの真美だった。
「中夜くん、大丈夫だった?」
「大丈夫だよ。遠回りしたから少し遅れて来ちゃったけどね。」
僕が安心しきった顔で微笑むと、彼女も柔らかい笑顔を浮かべた。
「そうだ、来週も一緒に出かけようよ。」
僕がそっと真美に耳打ちすると、何も知らない彼女は二つ返事で了承してくれた。
僕は毎日罪を重ねている。
恋人の秋桜にひどい事をしているという自覚はあった。
でも、秋桜を傷つけているという実感はいつまでも湧かないままだった。
なぜなら彼女は、何度傷つけられても平気で笑っていられるような、あまりにも優しい人間であったからだ。
彼女の優しさは僕に翼を与えた。
しかしそれは皮肉なことに、その翼で僕は何処にでも行けるようになってしまったのだ。
だから僕は、秋桜よりも居心地のいい真美という美しい心の拠り所に飛び去ってしまったのだ。
僕がしている事は最低だと思う。
でも、僕をこうさせてしまったのは紛れもなく秋桜なのだ。
たとえ誰かに責め立てられたとしても、騙された秋桜が悪いとしか僕には言えなかった。
恐らく秋桜は、この事実を告げなければ僕のことをいつまでも愛してしまうだろう。
そんな盲目的に僕を想ってくれる彼女を差し置いて、真美との関係を深めていく──
その罪の重さが背徳感を芳醇に育て上げ、いつしか僕はその甘味に耽溺していた。
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