2人が本棚に入れています
本棚に追加
私がこうして自分達の星について語ることが出来るのは、先祖達が遺した書物のためである。この星には沢山の書物が遺されている。先祖達も皆暇だったのだろう。何しろ、自分以外には空と地面とたった一人しかないのだから。毎日同じく太陽が昇り、沈み、大地が温まり、冷え、どこを見ても、自分以外はその一人しかいない。また、子を産むと間もなく死んでしまうという種族の特性のせいもあるだろう。後世に伝えたいことがあっても、直接話すことが出来ない。そのため、思いついたときに書き残しておくほかないのだ。
遺された書物の中でもひと際古く分厚いある一冊には、この星とは全く異なる星の姿が描かれていた。それはとてもとても大きな星で、私達の星の十倍以上も時間をかけて自転するという。その星と比べたら、私達の星などきっと砂粒にも満たないだろう。太陽はその大きな星をいっぺんに照らしきれないから、その星の地には、風が草を撫でていくように順番に朝が来る。その星には何十億人もの“ヒト”が生息しており、その生き物は私達とよく似た姿形をしている。“ヒト”の多くは朝起きて夜眠るから、星に順番に来る朝に呼応して、波のように起きる。そして星には、“ヒト”以上に多くの動物や植物が生息し、互いに互いを食べて存続しているという。
その書物が、あまりに暇だった先祖が知的快楽を求めて膨らませた妄想なのか、その星の生物との実際の交流の記録なのか、はたまた先祖が元はその星の生物で、故郷を懐かしんで遺したものなのか、定かではない。とにかく私は、そこに描かれた星が比較対象として在るからこそ、自分の住む星について語ることが出来るのだ。
私と彼は大抵、星の対極に座る。互いの顔はもう見過ぎというくらい見て飽きているからだ。そのため、私のいる側が朝のとき彼のいる側が夜で、彼のいる側が朝のとき私のいる側が夜であることが多い。たまに、朝焼けや夜の星が綺麗で、それを共有したいと思ったときは、相手を呼び寄せて並んで座った。しかしそれも幼いころの話で、成長するにつれ、そんなことはなくなっていった。
最初のコメントを投稿しよう!