小星

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 ある日、私は彼に提案した。 「もう、私達で終わりにしようよ、この星を」  少しひっくり返ってしまったけれど、上手く声を出すことが出来た。声を出すのも、風以外の音を聞くのも久しぶりだ。 「……どうして」  ややあって、聞いたことのない低い声が返ってきた。  私は一瞬びっくりしてしまったけど、声の主は彼だった。当たり前だ、彼しかいないのだから。そうだ、男性は成長すると声が低くなると、書物のどれかに書いてあった気がする。  私はたどたどしい声で続けた。 「だって、意味がないよ。面白くないよ。互いしかいない場所で、何もせず成長だけして、子どもを産んで、死ぬなんて」  彼は私よりももっと声を出しにくそうに、ゆっくり、ゆっくり喋った。 「意味はないだろうね。それは認めるよ。でも、面白くないっていうのはどういうことかな」 「……面白いというのは、もっと、ときめくことよ、心臓が。本に書いてあった」 「ときめくっていうのが、よく、わからないけど……僕が存在するだけのこの星は、面白くないということだね」  彼は暫く黙った。  私も黙った。彼が何か考えているようだったから。  入れ替わる朝と夜の間で、彼は再び口を開いた。「僕達が絶滅しても、この星は在り続けると思うけど」 「この星が在り続けても、私達はこの星からいなくなろうっていうことよ」  私は言った。 「こうして、毎日、同じ地面に座って、空を見て、それで何がある?何もない、しかない。私達が生まれてきて、両親から授かったものが、この、何もないという虚無感よ。それを歴史通りに子ども達に伝えることに、何の意味がある?何もないわ。子ども達にもこの虚無感を伝えることが、果たして正しいこと?なぜそうまでして、私達は在り続けなければならないの?その理由はないと思うの」  私達は子を産もうと思えば産めるし、自分にどのくらい負荷をかければ死に至るかも予測出来るほどには成熟していた。  嘗ては彼とよく話し、よく一緒に遊んだ。しかしいつの頃からか、星の対極に座り、互いの姿を見ずに過ごすようになった。こんなに言葉を交わすのは本当に久しぶりだ。私の発言量の方が圧倒的に多いのだけど。その話題が、もう終わりにしよう、だなんて、これが、互いに聞く最後の声になるかもしれないなんて。  彼はこちらを見ない。
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