出会いと契約編1

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「素直になりたまえ、この私がわざわざ侯爵家自慢の薔薇園を案内してあげようと言っているのだから」 「お離しください!」 「おやおや、気の強いご令嬢という噂は本当らしい」  侯爵家を敵にまわすことを恐れるべきなのか、二度と侯爵主催の夜会に招待されないのを覚悟して、この手を振り払い、平手の一つでも食らわせたほうがいいか、プリシラは真剣に考える。  手袋をしていても、この男に手を握られているのがとても不愉快だった。下心丸出しの笑みが不快で、たまらない。 「デズモンド君、いい夜だね」  プリシラの気持ちが平手のほうに傾きかけたとき、誰かが男の名を呼ぶ。 「これはルイス殿下……」  ルイスというのは、この国の第三王子の名だ。  その名を聞いたプリシラは、咄嗟(とっさ)(こうべ)をたれて礼をとる。強く握られていた手も、いつのまにか離れていった。 「これは、無粋なことをしてしまったようですね。……先ほどグルベンキアン侯爵が珍しくご息女を連れているところに出くわしてね……」  グルベンキアン侯爵は国内有数の大貴族だが、跡取りがいない。この国では女性が爵位を継ぐことができないため、後継者がいない場合は親類から養子を迎えるか、娘婿を養子とし、家を継がせるのが一般的だ。  いかに名家に生まれても、爵位を継げない三男は惨めなものである。デズモンドが爵位を与えてくれる女性を口説こうと必至なのは、誰もが納得する話だ。  そして、家の格はまったく違うが、プリシラの家であるランブロウ伯爵家にも跡取りがいない。今までしつこく付きまとわれていたのはそのせいだ。 「ランブロウ伯爵令嬢、残念だが主催者の身内として挨拶をせねばならない客人がいらっしゃったようだ。また、会える日を楽しみにしているよ!」
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