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たった数日一緒に過ごしただけだというのに、別れが寂しい。最初からわかっていたことだし、本当の飼い主のもとへ戻れるのは子猫にとって喜ばしいことだ。
だから、プリシラはできるだけ明るく振る舞う。
「それが……、王太子の宮で飼われている猫なんだそうです。最近飼いはじめたばかりで外に出していなかったようです。王子たちが雪を見せてあげようと、窓を開けたら逃げ出して、迷子になったのでしょう」
子猫は好奇心が旺盛だ。はじめて見た雪に興奮して、外に出たら迷子になってしまったのだろう。王都の民に向けて、迷い猫の知らせをしても、飼い主が現れないのも当然だった。
ステファンとメアリーの子――小さな王子たちは、きっと愛猫がいなくなったことを心配しているに違いない。
プリシラはそんな想像をして、胸が痛くなった。
「伯爵邸で元気にしていることは、王子たちにも伝わっているはずです。急なことで申し訳ありませんが、今からこの子を返しに行きます」
「はい……。少し寂しくなりますね」
かごに入れるために、プリシラが子猫を抱き上げた。最後に近くで子猫を見ようと近づけると、ペロペロと頬を舐める。
自然に涙がこぼれると、子猫がなぐさめるように、それを舐めとった。
「大丈夫ですよ。兄上の宮で飼われているのなら、また会えますから」
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