代わりにはなりたくない

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代わりにはなりたくない

スマートフォンのアラームの音で目を覚ました。 体を起こしてカーテンを少し開けるとまだ外は暗い。 横で寝息をたてている佐伯先輩を起こさないよう、ゆっくりベッドから下りる。 音を立てず静かに着替えて部屋を出ようとすると「もう行くの……?」と寝起きのか細い声が聞こえた。 俺はもう何度も聞いた『寂しい』と感情が含まれた言葉に返事をしないと決めていた。 「起きてたんですか?」 「今起きた……」 先輩も起き上がるとベッドの下に手を伸ばす。昨夜俺が強引に脱がせたシャツをベッドの下から拾い羽織った。シャツの間から見えた先輩の胸には、俺がつけた赤い痕がくっきりと残っていた。 「朝ご飯は食べてく?」 「一度家に帰るのでいらないです」 「そっか……」 先輩は朝ご飯を断る俺を残念がっているのか下を向く。そんな仕草を見せていても、本心ではすぐ帰ることに喜んでいるのではないかといつも疑ってしまう。 身体の欲求は満たせても、心までは満たせてあげられない。それが痛いほどわかっているから、俺も深く先輩に関わることができないでいる。 「じゃあ後で」 玄関でそう言い捨て、先輩を振り返らず靴を履くとドアを開け外に出た。 夢の時間は終わりだ。一歩部屋を出ればまた只の『先輩』と『後輩』に戻るのだから。
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