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「でもあの子」
二人分のお茶を持って来た明子はベッドの横に座る。
「年末のハワイ旅行にどうして黒木さんなんかと私が一緒だったと嘘をついたのかしら?」
雄一の気まぐれな嘘で明子も夫も大いに傷ついたのだ。
「それは僕も悪かった。僕が雄一を厳しく問い詰めたからかも」
忠雄が旅行に行った男は『く』のつく名前だったろうとしつこく雄一を攻め立てたからだ。
「そう……あの子も可哀相な運命だものね」
「明子、もう忘れてやろう。赤ちゃんは僕と明子の赤ちゃんなのだから」
雄一にも言い分があるはずだ。
「あ!忘れていました」
「何だね?」
明子が何か思い出したようだ。
「あなたびっくりしないでね」
「待ってくれ。それってとても大事なことなのか?」
忠雄は明子の口からあなたの余命は、と言われるのかと体を固くした。
生きたい、1日でも長生きしたい。
「本郷さんのご主人、電車に轢かれて亡くなったそうよ」
「ほ、本当か?」
「あなたと同い年だったのだって」
「………」
倉石は声も出ない。
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