第六部

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「明子、すまないがここに電話してくれないか」 自宅療養してから倉石忠雄はずっと考えていたことがある。 「帝国興信所?興信所に何か?」 忠雄は雄一を探すために昨年、調査を依頼したことがあり、そこの私立探偵に用があるのだと言った。 「何を調べるのですか?」 すでに赤ちゃんはDNA鑑定の結果、夫と明子の子供に間違いないと判明している。 それなのに夫はまだ疑問があるというのか。 「僕は命ある限り、悔いのないようにしたい。昔、冷たい処遇をしてしまった部下に謝罪しておきたいのだ」 倉石は一夜限りの不倫をした例の大久保悦子の昔の恋人、牧野に謝りたくなったのだ。 悪酔いした大久保が部長は奥さんと月に何回エッチするの?とか女だてらにとんでもないことを口にした時、忠雄は激怒した。 無礼講をまともに受け、上司の夫婦生活にまで口を出した大久保悦子を忠雄も若かったからか許せなかったのだ。 大久保を処分してやろうと思案した忠雄は彼女を違う部署に配置転換するよりもっと意地悪なことを思いついた。 大久保の恋人だ。 恋人を地方に飛ばしたら大久保はどんな顔をするか。 忠雄は何の罪もない牧野にしでかした償いを人生最後の今、善処したくなったのだ。 「あなた宮本さんが出ましたわ」 明子が電話を渡した。
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