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さっぱりしたところで、台所の丸椅子に座らせた。
これから怒られるとでも思ったか、七緒は、尾羽を尻の下に敷き、しょんぼりとしている。
「朝飯昼飯抜きで、お前も腹が減ってたろう。ジャムの件は、不問に付してやる」
わざと難しい言葉で言うと、七緒は首を傾げて、クククー、と鳴いた。
「許してやるわけじゃないぞ? でもまあ、仕方がないかな、という面も、なくはない」
あっさり許すのは、癪に障るのだ。
七緒が、羽を広げた。
ばさばさと上下に動かす。
テーブルの上の、醤油差しが、倒れそうになった。
「だから、それ、ダメだって。ほら、また羽が汚れるぞ?」
ばさばさばさ。
七緒は止めない。なんだか、必死の目をして、溂を見ている。
「もうっ! やめやめ。さもないと……」
言いかけて、はっと気がついた。
「そうか。ケーキか」
さっき、ジャムを盗み食いした罰で、ケーキはあげないと言った。
七緒は、ケーキが大好きだ。
特に、間にイチゴジャムをはさんで、くるくる巻いたロールケーキが大好物だ。
「わかった。ケーキは作ってやる」
羽の動きがぴたりと止まった。
白い顔に、喜色が浮かんでいる。
「……」
フロレツァールごときの思うがままになるのは、やっぱり悔しい。
でも、今は、大事の前の小事だ。
本能のままに生きている七緒に、どうしてもわからせなければいけないことがある。
「七緒。今朝の話だ」
そう言うと、小首を傾げる。
「ああいうことは、しちゃ、いけない。ああいうこと。わかるか?」
七緒は、きょとんとした顔をしている。
構わず、溂は続けた。
「さもないと、俺は、お前と、一緒に暮らすことはできない」
最後まで言い終わらないうちに、七緒が、羽をばたばたさせて暴れ始めた。
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