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「フロレツァールは、完全な一夫一婦制なんだ。伴侶から引き離されたら、鳴いて嘆いて、一生を終えるんだって。歌を楽しむこともなくなり、羽も抜け落ちて、食べることさえやめてしまうそうだ」
「はあ」
「あの美しい生き物が、痩せさらばえて、最後は、檻の下に倒れて死ぬんだって」
「へえ」
「なんだよ、溂。ひとごとのように」
「ひとごとだもん。お前、なんだかすごくロマンティックになったな、敬介」
「そりゃ、まあ、経験値かな」
敬介は、結婚している。昨年、子どもが生まれたばかりだ。
すかさずのろけようとする彼を、溂は押し留めた。
「で、孵化してすぐ、伴侶を獲得できなかったらどうなるんだ? 孵った卵が全部同性だったとか、異性が極端に少なかったとか。ないわけじゃないだろ?」
「ああ、それ。簡単なことだ。同性しかいなかったら、同性同士でくっつく。これには、メリットがないわけじゃない。生涯、助け合っていけるからな。あぶれたら、生涯独身。いずれにせよ、子孫は残せない」
「はあ。厳しいな」
「ああ、厳しい。自然は厳しいんだ。スタートダッシュが肝心だ。フロレツァールなんかに迫られてないで、お前も頑張れよ、溂」
「余計なお世話だ」
腐れ縁の友に上から目線で諭され、溂は、むっとした。
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