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「……」
溂は、無言で七緒を見つめ返した。
七緒の顔に、焦ったような表情が浮かんだ。
「七緒、それ、ケーキに使うって言ったろ?」
できるだけ冷たい声で言ってやる。
「グワッ、グワッ、グワッ」
何かいいわけでもするような声で、七緒が鳴いた。
「そうか。お前、ケーキ、いらないんだな?」
「グワッ!」
七緒が羽を広げた。
焦ったように、羽ばたかせる。
「うわっ! バカ、甘露煮が落ちる!」
作ったばかりの栗の甘露煮を守るため、溂は、七緒に飛びついた。
羽を押さえつけ、がんじがらめにする。
「クククククーーーー」
謝っているつもりか、弱々しい声で、七緒が喉を鳴らした。
白い顔が、ジャムでべとべとになっている。
怒られて、ハンストして。
お腹が空いたからジャムを盗んで食べて。
顔を汚して。
あげく、俺に許してほしくて、こんな哀れな声を出している。
でも、その姿は、本当に、
本当に。
……かわいい。
いや。
そうじゃなくて。
「七緒。来い。話がある」
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