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……わかった?
七緒は、言葉がわかるのではないか。
時々、そう思うことがある。
今も、明らかに、一緒に暮らせないという言葉に反応したのだ。
ただ、七緒の理解は、局所的だ。全てがわかるわけではない。最初に言った、ああいうことはしちゃ、いけない、の部分は理解ができていなかった。
どこまで理解できているかわからない。言葉以外の何かを読み取っているのかもしれない。
気持ちとか。感情とか。
……心?
とにかくそこが、難しいところだった。
「いや。俺だって、やみくもに、お前を追い出そうとしているわけじゃない」
疲れて羽を休めるまで待って、溂は言った。
七緒は、ぜいぜいと息を切らしている。
それでも、溂の表情から何かしらの希望を感じたらしい。ぐいぐいと、こちらににじり寄ってくる。
「だから、それ」
溂は言った。
「そういうふうに、強引に、迫っちゃ、だめだ。嫌がっているのに羽で包んだり、服を脱がせたり。そういうの、だめ」
七緒は、溂の言うことなど、お構いなしとでも言わんばかりの表情だ。
「今朝のこと……わかるか?」
諦めず、溂は続けた。
「ああいうことは、しちゃ、だめだ。俺は、してほしくない」
再び、激しい羽音。
「……そりゃ、お前は、やりたい盛りだろうさ。だけど、相手を考えろってことだよ。俺は、人間なんだよ。お前とは、種が違うんだ」
「ガア!」
馬鹿でかい声が、耳元で鳴いた。
思わず溂は、耳を塞いだ。
「わかった。お前は俺が、好きなんだな?」
何しろ、卵から出て、最初に見ちゃったからな。
やっぱり、刷り込まれた?
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