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彼女の定位置であった最後尾車両の後ろから二番目のドアの、僕のパーソナルスペースの空間には、疲れたようすのサラリーマンとかスカートの短い女子高生とか、見知らぬ誰かが立つようになった。
それから高校を卒業するまでの二年間、僕は毎朝電車に乗るたびに彼女の姿を探したが、結局、もう二度と会うことはなかった。
いつからか僕には彼女とは別の好きな子ができて、クラスメイトのその子と付き合うようになってからは、あのばかみたいに素直な目をした横顔を思い出すことも少なくなっていった。
この四月から僕は大学生になり、それを機に、通学に南海電鉄を利用することはなくなる。
朝のとうめいな空気のなか、平坦なアスファルトをバイクで滑りながら、ふと光に満ち足りた空を見上げ、今でも時々思う。
彼女は、探していた雲を見つけることができたのだろうか。
まるくて、ふわふわしていて、ずっと昔に死んだシロにとてもよく似ているという雲。
その淡い砂糖菓子のような雲を、君はやっと捕まえて、自分だけのものにすることができたのだろうか。
そうしてまた、あの硝子玉のような目で、どこかの空を見つめ続けているのだろうか。
Fin.
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