砂糖菓子

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秋の日のことだった。 その日は学園祭の振り替え休日で、部活動の半日練習に参加していた僕は、平日の真昼間という珍しい時間に高野線に乗った。 今朝とは逆の、河内長野方面行きの急行電車。 車内はがらがらに空いていた。しかし僕は午前中に思いきり身体を動かしたという妙な高揚感から、座席には着かず、いつものように最後尾車両の後ろから二番目のドアの、外の光がいっぱいに当たった片隅に立つことにした。例の彼女を見つけたのは、その次の停車駅でのことだった。 天下茶屋駅。 車掌のアナウンスが響き、ドアが開くと同時に彼女はホームからまっすぐにこちらに近づいてきた。 内心、僕はひどく慌てた。 彼女は僕のほうには見向きもせず、しかし僕の胸もとでドアに貼りつき、窓を掴んで空を見上げる。誰かが磨き上げたような、青々とした空。車内はがらがらなのに、僕と彼女の立つこのとびらの前だけ、なんだかじっとりと気温が上がった気がする。 後ろから二番目のドア。 「いい天気やなあ」 と、彼女がつぶやいた。 電車はちょうど大きな川の上を走っていた。水面に散った光が、きらきらとまぶしい。僕は今にも叫びだしたくなった衝動を抑えて、彼女の横顔をじっと見つめる。その透きとおったような色の薄い目がふりむいて、背の高い僕を見上げ、しずかに微笑んだ。 少女。 彼女には、その言葉がとてもよく似合う。 「いつも空を見ていますね」 僕は言った。情けないことに、かすかに声が震えてしまっていた。 いつも。 いつも、僕はあなたを見ているのです―――― 空を見ていますね、の直前の三音に、今の僕が出せる精いっぱいの勇気を詰め込んだ。彼女の、硝子玉のようなひとみを見つめながら。 「空が、お好きなんですか」 彼女はこっくりとうなずいて、視線をまた、あの膨大な青に戻す。 「雲を探してるん」 「雲?」 そう、と言って、彼女は続けた。 「まるくて、ふわふわしてて、わたあめみたいな雲。大阪市内に向かうときに、この電車から見つけてん。それも二回も。ずっと昔に死んだシロによう似てるんよ」 君の言うシロが、犬なのか猫なのか、はたまた人間なのか―――― 「次に見つけたら、今度こそ捕まえて、わたしだけのもんにする」
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