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K美と彼の交際が順調だったのは最初の数ヶ月だけで、K美の様子は徐々におかしくなっていった。
男に暴力をふるわれているらしく、K美の身体にはアザやケガが絶えなくなっていった。ギャンブルが趣味の男に貢ぐために、K美は身を粉にして稼いだ。大学も辞めてしまい、男の為にだけ日々を過ごした。
K美の目を覚まさせようとした両親やW子の説得にも耳を貸さず、最終的には彼女は自宅を飛び出してしまった。
そして音信不通になって数年後、K美のご両親に届いたのは、愛する娘の孤独死の報せだった。
「あの男は、姉からお金を搾り取れるだけ搾り取って、ゴミみたいに捨てたんです」
風俗店を幾つも掛け持ちして働かされていたK美の身体は、可哀想にボロボロになっていたそうだ。
男の行方は分かっていない。
合わせ鏡が見せた男の姿は、確かにK美の『運命の男』だった。ただし、それは『運命を狂わせる男』────。
「絶対に、仇を取ってやろうと思ってるんです」
既に興信所に男の居所を調べさせていると、W子さんは言う。
「でもW子さん、貴女も合わせ鏡の中にその男の姿を見たんだよね?
じゃあ貴女にとっても、もしかしてそいつは『運命を狂わせる男』になってしまうんじゃないの?」
瞳に怨みと怒りの焔を宿らせたW子さんにそれを伝えるべきか否か、迷いながら
── あの夜、鏡の中に誰の姿も見えなくて良かったと、私は深く感じていた。
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