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「姉の『運命の人』の話を、ご存じですか?」
久しぶりの再会を喜びあう間もなく、W子さんは硬い表情のまま切り出した。
「『合わせ鏡』の都市伝説の」
『鏡』と言われて脳内に甦ったのは、K美の家にあった、お母さんの嫁入り道具だと言っていた三面鏡の鏡台だった。
「午前0時に合わせ鏡をして映り込んだ無数の像の中に、未来の結婚相手が見えるんだって」
そんな噂が、当時のクラスの女子達の間で話題になった。
「ウチのお母さんの鏡は、合わせ鏡が出来るよ。泊まりにおいでよ」
K美に誘われ、私は興味津々で「行く行く!」と喜んでお泊まりセットを持ってお邪魔したのだ。
……そして真夜中、私達は二人で布団を抜け出して、時計が午前十二時を示した時、まずはK美が閉じられていた三面鏡の扉を開いて中を覗いた。
「……あ! 誰かいる」
「え?! どこどこ?」
K美の言葉に、私も慌てて鏡に映る無数の像の中を探す。
「ほら、あそこ。一番奥の鏡に」
そう言ってK美は指をさしたが、どんなに目を凝らしても、鏡の中には頬を上気させて興奮しているK美と、ぽかんとバカみたいに口を開けている自分の姿しか見つけられなかった。
「あの人が、私の『運命の人』なんだ」
うっとりとして呟いたあの夜のK美は、ずいぶんと大人びて見えた記憶が残っている。
「そいつが、姉の人生をメチャクチャにしたんです」
「どういう事?」
「姉は、その後も何度も夜中に鏡を覗いては『運命の男』の姿を確認していました。そしていつかどこかで、実在の彼に出会えると信じていました。そして姉が大学生になったとき……」
その日、アルバイト先の飲食店から、K美が興奮して帰ってきたそうだ。
「ついに会えたの! 運命の彼に」
店に現れた客が、鏡の中の男と瓜二つだったのだと言う。
K美は運命の人を逃がしてはならぬと猛アタックを仕掛け、晴れて二人は交際を始めるようになった。
「私も一度、子供の頃に姉と一緒に合わせ鏡をして、姉の言う『運命の人』の姿を見た事があったんです。姉に紹介してもらったその彼は、確かに鏡の中の男とそっくりだったんです。でも……」
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