第1章 3 氷のような彼女

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「なあに? ため息なんてついちゃって。一日はこれからじゃない!」  静かな中庭に響き渡る声。  驚いた魁斗が振り向けば、見知った顔がそこにあった。  くすっと笑うかわいらしい顔。大きな瞳。赤い頬。特徴的な茶髪のツインテール。  見た目にも元気な女の子だ。 「風紀委員の先輩?」 「真中樹里、二年よ。よろしくね、森崎魁斗くん」  この間、刑事が呼んでいると教えてくれた先輩。真中(まなか)樹里(じゅり)と名乗った彼女は、明るく活発だとよくわかる笑顔を魁斗に向けた。 「こんな所で何してるの?」 「別に」  自分の記憶や刑事とのやり取りを話すわけにはいかず、素っ気ない態度になる魁斗。  特に気にするわけでもなく、樹里は笑顔を向ける。 「イジメにでもあったの?」 「まさか」 「そういうタイプだと思ったのにな」 「そんな風に見えますか?」 「イメージ。何となく!」  魁斗が怒っていると、樹里はその手を引っ張る。落ち込んだ様子の魁斗などお構い無しに、別棟の方へ歩いていく。 「真中先輩!?」 「樹里って名前呼んでよ。苗字、嫌いなの」 「じゃ、じゃあ樹里先輩! どこへ行くんですか?」  ぐいぐい引っぱりながら、進んでいく樹里。魁斗が転びそうになるのも構わず歩く。
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