段々畑殺人事件

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とある鄙びた漁港の町 港の突堤に立ち、水平線を眺めている。 後ろを振り返ると山々の斜面に段々畑が点在している。 私はマルボロに銀のライターで火をつける。 一口、吸込んで五月晴れの空におもいきり吐き出す。 その時、ふっと昔の出来事を思い出す。 その日も、抜ける様な青空が空一面にひろがっていた。 横に居る老人がつぶやく。 ・・・人は皆、歳を重ね、 身体が思うように動かなくなり、 頭の中は、毎日曇り空のようにスッキリせず。 誰が誰か分からんようになって。 そして、朽ち果てていく。 皆そうじゃ、誰ものがれられん。 ・・・わたしはと云えば その言葉を、聴くとはなく聞きながら。 今日は良い天気だ。軽く公園の周りでもランニングしてくるかな。 そんな、とりとめもない事を考えている。 老人のつぶやきは何時はてるともなく続いている。 ・・・人は皆死ぬんじゃ。 自分が誰か。あんたが誰か。分からんようになってなぁ・・・ あの段々畑のように、だんだんとな・・・ だんだんとなぁ。 だんだんと死んでいくんじゃ。 歳がいって自然に殺されるんか、誰かに殺されるんか。 それも分からん様になってなぁ。 ・・・あれから私は老人に会っていない。   ・・・もう何年も前から。  
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