9人が本棚に入れています
本棚に追加
とある鄙びた漁港の町
港の突堤に立ち、水平線を眺めている。
後ろを振り返ると山々の斜面に段々畑が点在している。
私はマルボロに銀のライターで火をつける。
一口、吸込んで五月晴れの空におもいきり吐き出す。
その時、ふっと昔の出来事を思い出す。
その日も、抜ける様な青空が空一面にひろがっていた。
横に居る老人がつぶやく。
・・・人は皆、歳を重ね、
身体が思うように動かなくなり、
頭の中は、毎日曇り空のようにスッキリせず。
誰が誰か分からんようになって。
そして、朽ち果てていく。
皆そうじゃ、誰ものがれられん。
・・・わたしはと云えば
その言葉を、聴くとはなく聞きながら。
今日は良い天気だ。軽く公園の周りでもランニングしてくるかな。
そんな、とりとめもない事を考えている。
老人のつぶやきは何時はてるともなく続いている。
・・・人は皆死ぬんじゃ。
自分が誰か。あんたが誰か。分からんようになってなぁ・・・
あの段々畑のように、だんだんとな・・・
だんだんとなぁ。
だんだんと死んでいくんじゃ。
歳がいって自然に殺されるんか、誰かに殺されるんか。
それも分からん様になってなぁ。
・・・あれから私は老人に会っていない。
・・・もう何年も前から。
最初のコメントを投稿しよう!