イチ ・ クチ ・ ター ・ リー

2/2
前へ
/17ページ
次へ
・・・私が小学校高学年の時 教室で国語の授業を受けていた。   ぼんやりしていた私に周囲のざわめきがさざ波の様に届いた。 ・・・そして教室の前方から教師らしき人の声   メタファー君。では前に出て、黒板に漢字で、 ”ふくかいちょう”と書きなさい。   ・・・私は考える。 ”会長”は分かるけど・・・、 ふく、ふく、どんな字やったかなぁ。   ・・・すると、私の後ろに座っている田川が小さな声で ”イチ・クチ・ター・リー” ”イチ・クチ・ター・リー” と、何やら呪文の様なものを唱え始める。 この田川は少し変わっていて 学校に武士のちょんまげ姿できたり 自分の背中側にネクタイをしてきて 上級生に引っ張られて目を白黒させていたり 兎に角問題の多い男であった。   私はまたか、うるさいなぁ?。漢字思い出されへんやんか! 田川に文句を言う。   ・・・黒板へ向かいながら ”はっ” と頭にヒラメクものがあった。   そうかぁ?。”イチ・クチ・ター・リー” 呪文ではなかったんだ。   一・口・田・リー         副 (ふく)   田川は私に漢字を教えていたんだ。   ・・・私は黒板に大きな字で   副会長と書き、意気揚々と席に戻り 田川に小さな声で礼を言った。   ・・・近頃、このエピソードを事あるごとに思いだす。 ・・・そしてつぶやく。   ”イチ・クチ・タ・リー” ”イチ・クチ・ター・リー”   ・・・まるでこの退屈な世の中を渡るための呪文のように。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加