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・・・私が小学校高学年の時
教室で国語の授業を受けていた。
ぼんやりしていた私に周囲のざわめきがさざ波の様に届いた。
・・・そして教室の前方から教師らしき人の声
メタファー君。では前に出て、黒板に漢字で、
”ふくかいちょう”と書きなさい。
・・・私は考える。
”会長”は分かるけど・・・、
ふく、ふく、どんな字やったかなぁ。
・・・すると、私の後ろに座っている田川が小さな声で
”イチ・クチ・ター・リー” ”イチ・クチ・ター・リー”
と、何やら呪文の様なものを唱え始める。
この田川は少し変わっていて
学校に武士のちょんまげ姿できたり
自分の背中側にネクタイをしてきて
上級生に引っ張られて目を白黒させていたり
兎に角問題の多い男であった。
私はまたか、うるさいなぁ?。漢字思い出されへんやんか!
田川に文句を言う。
・・・黒板へ向かいながら
”はっ” と頭にヒラメクものがあった。
そうかぁ?。”イチ・クチ・ター・リー”
呪文ではなかったんだ。
一・口・田・リー
副 (ふく)
田川は私に漢字を教えていたんだ。
・・・私は黒板に大きな字で
副会長と書き、意気揚々と席に戻り
田川に小さな声で礼を言った。
・・・近頃、このエピソードを事あるごとに思いだす。
・・・そしてつぶやく。
”イチ・クチ・タ・リー” ”イチ・クチ・ター・リー”
・・・まるでこの退屈な世の中を渡るための呪文のように。
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