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そう望まれても、そう望んでも、涙はどこからか溢れてくる。嫌な記憶とともに、拭っても拭っても拭いきれない染みのようにこびりついてしまっている。
私の声は、いつしか誰にも届かなくなった。
誰とも喋らなくても、たいして不便はない。授業中に当てられることもなくなったし、もとから友達なんかいないから話しかけてくる物好きにはただ笑い返せばよかった。
大好きな音楽だけは、受けるのがきつかったけど。
歌うことができなくなったのにそれでも私は音楽の授業をサボったことはない。どんな教科よりも大好きだった。歌。音楽。ピアノ。音の、響き。
歌えない私はその反動でかピアノを弾くことが多くなった。休み時間には無断でピアノを弾いてることもあった。それが先生に見つかり、怒られるかと思ったら、逆に先生の代わりにピアノを弾くことで歌の代わりに評価してくれるってことになった。
授業で弾くピアノは実際はそんなに難しくない。私にとっては、だけど。
「深見さんの音はいいわね、素直で」
まだ若い音楽教師がにこにこしながら言った。次の授業で使う、楽譜を私にくれる。
「私もあなたくらい弾けたらよかったんだけどね」
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