キジトラ 初秋

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 夕方の住宅街を抜け、この私が気に入っている喫茶店へと向かう。 電信柱を曲がると正面に見える。 磨りガラスのドアが少し開いていたので店内を覗き込むと、娘が、後片付けを手伝う常連客と笑っていた。 娘は根っからの快活な性格だが、つい先日まで泣いていた。 この私が気まぐれで慰めてやった。 昔ながらの落ち着いた喫茶店は、初老の店主と娘の二人で切り盛りしていたけど、店主が病に倒れ、入院する事になった。 退院は未定らしい。 娘は途方にくれ、休業しようとしていた。だけど常連客の励まし、力添えによって、できる範囲での営業を決めた。 持ち前の明るさで、張り切っている。  お喋りに夢中でこの私に気付かない。 ドアで爪研ぎをしてやる。 その音に、娘は慌てて、この私の食事を持ってきた。 勘違いするな。食べ物をねだってる訳じゃない。この私は狩りが得意だ。 今朝もピョンピョン跳ねるすばしっこい奴を捕まえてやった。 食べはしなかったが……。 単に生活リズムだ。
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