1143人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういえば応接室にもうひとつドアがあったね」
「あのドアから直接廊下に出られるんだ。なかで部屋はつながっているけど、応接室からプライベート空間に入るドアは施錠してある。基本的には行き来できない」
ああ、なるほど。わたしもそちら側へは立入禁止ということか。今日は特別に見せてくれたんだ。
「葉月のことは、コンシェルジュに言っておくよ」
「うん、ありがとう」
さすがにリクがいないときに、この部屋で過ごす勇気はないけれど、リクがそこまで言ってくれる気持ちはうれしい。
本音を言うと怖気づいている。わたしにはふさわしくないこのスイートルームに強烈なプレッシャーを感じていた。
ここまでしてもらう価値なんてわたしにあるのだろうか。
平凡なOLで、秀でた才能もない。子どもの頃から親の期待を一心に背負いながらも応えられず、親孝行のつもりでいいところのお坊ちゃんとお見合いをしてみたけれど、見事にフラれ破談となった。
見合い相手に本気で恋をしていたわたしはショックのあまり、数日間食事が喉を通らなかった。
それだけでない。
父は小さな会社を経営しているのだが、わたしのせいで融資の件は白紙になったのだ。
そんななか、実家の会社を助けてくれたのがリクだったのだが……。
親だけでなく、リクのことも幻滅させやしないか、そのことがすごく不安だ。
最初のコメントを投稿しよう!