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「たとえばの話です」
「ふふ、好きな方の想い人を奪うなんて度胸は男性にはないでしょうね、そうなると好かれた方かしら?奪われた方かしら?」
「たとえば、ですって」
「ええ、そうね。どちらにしても、女の愛情は深いものなのよ。時にその愛情に自分が溺れて息ができなくなるほど」
俺としても久しぶりのブランコで、サイズ感も合わないしなかなか思うようにこげない。諦めてゆるゆると揺れるだけにした。
「…それって、幸せなんですか」
「どうかしら…幸せかどうかよりも。そうね、好きな方が自分を忘れてしまうことのほうが恐ろしいんじゃないかしら。きっと、覚えていてくれるならそれで満足なのよ」
「俺には…わかりません…」
猫の背中を撫でる。柔らかな被毛に慰められる。
「わからなくていいのよ、」
猫はざらりとした舌で俺の手を舐め、「わかろうとするだけで、十分。そういう思いやりだけがわたしたちを繋いでいるんじゃないかしら」と言った。
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