初花染めの色深く

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だから仕方ない。 性欲を満足させ、俺は早朝の街を歩きながら持ち前のポジティブシンキングで結論づけた。 事務所の片隅の固いベッドに横たわり短い睡眠をとる。 目を覚ませば相変わらず夢も希望もない一日。いや、いつもと違う点もあった。 ただでさえ鬱屈した気分を容赦なく攻めるように電話が鳴っていた。 …朝っぱらからなんだよ。 と思ったが壁の時計は正午を五分過ぎている。気怠い身体を引きずり、デスクの上でうるさく鳴り続ける固定電話の受話器を上げた。 「はーい、こちらヒイラギ探偵事務所」 『…あの、仕事の依頼をしたいんですけど料金はどれくらいかかるもんですか?』 「あー…依頼内容を聞いてみないとわかりませんねえ。それに実際に調査してみないとなんとも。たとえばただの浮気調査と言っても用心深い相手なら現場をおさえるだけでひと苦労ですから、一律料金ってわけにいかないんです」 俺がそこまで言って間をおくと、受話器の向こうの男は『はあ』と不信感を滲ませた声を発した。
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