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甘いムードはしかし苛立たしそうな咳払いによってぶち壊された。
「スミマセン」
「邪魔するなよー」
「邪魔なのはお前だ。こっちは職務中なんだよ、さっさと帰れ」
「はいはい」
俺は見ていた住宅地図を片付けると旭町交番を後にした。
*
いつでも新しい一日が来る。鬱陶しいなんて強がって過去にしがみついていたけれど、そんな俺を見捨てることなく新しい一日は毎朝かかさず目の前にあった。
山河内のことも、裕子のことも、その他のたくさんの愚かな過ちでさえ、前を向かない理由にはならない。全部ひっくるめて憂鬱な朝に挑むしかない。
誰だってそうしているし、逃げたところでどうせまた寝て起きれば新しい一日はやってくるのだ。
友利が巡回から戻ってくる前、志野と二人きりの交番で、「付き合うことにしました」と報告をした。
志野は日誌を書いていたし、俺は住宅地図を眺めていた。さすがに面と向かって言うことはできず、さりげなく切り出したつもりが敬語になってしまった。
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