初花染めの色深く

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「安心してください、相談料はいただきません」 『依頼内容を話すだけなら無料?』 「ええ。ただ、もし引き受けることになった場合は多少の着手金を頂戴しています」 『…どれくらい?』 「それはクライアントのお気持ちで」 俺は話しながら相手の容姿を想像してみる。 二十代の痩せ型の男。仕事は事務系だろう。こだわりが強いタイプ。自分にばかり興味があり、他人には基本的に無関心。神経質で用心深いが、軽率な行動をとる一面もある。 志野からの話を聞いたばかりだから、妹がストーカー被害にあっているという男からの電話かと思ったが別件のようだ。 電話口の声からは妹を心配している兄の気配が感じられない。 『検討します』 用済みとばかりに、ぶつりと通話が切れる。 俺は繋がる相手の途絶えた電話回線へ「よろしくお願いしまーす、」と無為な言葉を投げかけた。 「さて、」 今日はなにをするんだったか。 受話器を置き、デスクの引き出しから手帳を取り出してめくる。
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