初花染めの色深く

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「あー浮気旦那の報告が明日だな。じゃあ今日は撮った証拠写真をプリントアウトしてぇ、資料まとめるか」 …その前に、風呂だな。 デスクの一番下の引き出しから黄色の手桶と石鹸箱を取り出す。 ベランダに干しっぱなしの湿ったタオルと下着をもぎ取って、俺は事務所のドアを閉めた。 ヒイラギ法律事務所は四階建てビルの最上階にある。最上階ではあるが見晴らしは良くないしエレベーターもない。 各階ワンフロアになっており、一階はインド料理店、二階は歯科、三階は法律事務所となっていた。 俺は鼻歌まじりに階段を下り、スパイスの香りに食欲をそそられながらビルの隣にある銭湯鶴乃湯の暖簾をくぐった。 番台に派手なキャバクラ嬢がいるから何事かと思ったが、よくよく見れば銭湯の一人息子だった。 「よお、元太(げんた)」 「やっだあ、本名やめてって言ってるでしょお」 「珍しいな番台に座ってるの」 「たまにはねえ」 「覗くなよ」 「え~?」
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