初花染めの色深く

14/103
前へ
/103ページ
次へ
同じ学校には三年間通ったわけだが共通の楽しい思い出があるわけではなく、くされ縁というやつだ。 俺は湯船を独り占めしてでたらめな鼻歌を歌い存分に至福を味わった。 顔なじみのじいさんがやって来たのでしばらく世間話をしてから鶴乃湯を後にする。 番台の横を通るときに、「今夜、八時に九龍(カオルン)ね」と元太に念押しされた。 言われなくても毎回同じだから嫌でも覚えている。 それから、インド料理店カルダモンでバターチキンカレーを食べ、階段を四階分登って事務所へ戻った。 胃袋も満たされこれで仕事に取りかかれる、というところで固定電話が鳴った。 「はい、ヒイラギ探偵事務所です」 「…留守番電話の機能はないんですか?」 口調が苛立っているのはわかるが何を突然言い出したのだろう。 「えっと、失礼?なんでしょう」 「こっちは何度も電話をかけてるんです。電話番を置くか、留守番電話を設定するかしてもらわないと連絡しようがない」
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加