初花染めの色深く

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「けど?」 「良い噂はないです」 「だろうな…妹と」面識があるか聞こうとしたところで志野が戻ってきた。 「娘が熱出したみたいでさ、まいったよ…さ、説明してくれ」 ソファに座る男の笑顔に得体の知れなさを感じる。つくづく、本心がまったく見えない。 「嫁さんなんて?帰ってこいって言われたんだろ」 「聞いてからでも間に合うさ」 「帰れよ馬鹿、説明することなんてないから」 「あるだろ。もったいつけた話し方しやがって」 「俺、聞いておきます」 友利の一言に、志野の表情が微かに歪む。不思議なもので友利の発言には重みがある。 「出来る後輩でよかったな。良き父親はさっさと帰って家族サービスをシナサイ」 「…緊急性があることじゃないんだな?」 「ああ」 俺がピースサインをすると志野はため息をついた。 「じゃあ友利、あとで報告してくれ」 「わかりました」 「沼津も、また連絡する」 「はいはい」
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