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…これはまずい気がする。
マスカットの水をきっていると、どたどたと足音が近づき、「電話出てくるから」と肩をたたかれる。
…マナーモードにしといてくださいよ。
なんて言えるわけもなく、梅田さんの足音は俺をおいて病室を出ていった。
…戻る、か。
意識したら負けだと思う時点で意識している。洗面台の鏡の中の自分と目が合う。不安そうな表情からふいと視線を逸らしがしがしと前髪をかいた。
わざと乱暴にカーテンを開け、「梅田さん電話?」と尋ねる。
「そうみたいです、荷物は置いてるんで戻ってきますよ」
「そっか。ほら、洗ったから食えば?」
「ですね…」
ベッドを跨いで備え付けてあるテーブルにマスカットの皿を置くと俺はイスに座った。
…む、むずむずする!梅田さん早く!早く帰ってきてください!
手持ち無沙汰で自分からマスカットに手を伸ばす。ぷちっと皮がはじけて爽やかな甘さがひろがる。
「階段から落ちたんだって?つか、階段から落ちたくらいでアキレス腱切れるんだな」
「自分でもびっくりです」
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