初花染めの色深く

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「美人でもいて見惚れてたのか?」 「ちょっと…考えごとを…」 「へえ、なんにしても災難だったな」 …わりと平気かも。 もう一粒、とマスカットに指を伸ばす。 「…沼津さんのことを考えてました」 思いがけない言葉に指先が鈍り、摘みそこねた実がぽろりと床に落ちる。 …に、逃げたい。 「あーー、もしかしてこの間のアレ?ははっ悪かなったなァ、まさかはじめてもらっちゃった?」 「違いますが…なんでキスされたのかわからなくて考えてました」 「男なら細かいこと考えんな、理由なんてないから」 「理由もなくキスするんですか?」 「真顔で聞くな。そういうこともあるだろ、自分の価値観だけが全てじゃねえぞ。俺いいこと言ったな」 凝視されてはまともに友利の顔が見れない。 …無言はやめてくれ! 「あれは事故とか天災とか、とにかく考えてどうにかなるようなもんじゃねえよ」 「わかってます。沼津さんのことなんて理解できないってわかってるんです。でも…考えてしまうんです」
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