初花染めの色深く

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「内容が気になったもので。お邪魔でしたか」 「邪魔じゃねえけど」 …なんだかなぁ、しゃべりづれぇ。 俺は欠伸をしながら志野から吐き出された紫煙が揺らめくのを眺めた。 * 数日前、電話で伝えられた内容は、「妹がストーカー被害を受けている男から相談があった」というものだった。 『つきまとわれているらしいが実害は出ていない。だから、知ってのとおり警察で出来ることなんて見回りの強化くらいなんだよ。相手に覚えがないことが余計に不安だって言うから、そういうことならお前だろ?名刺を渡しておいたよ。興味はありそうだったしそのうち電話があるかもな』 その後、例のお誘いがあり考えなしの俺は交番へ行っちゃうわけだ。結果、致しているところを友利に目撃される、と。 まあいいさ、生きていればいろんなことがある。 起こってしまったことをあれこれと悔やんでも仕方ない。 塀から落ちたハンプティダンプティはもとには戻らないのだ。たとえ英国王の権力をもってしても。
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