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「ったく。女どもはうるさくて仕方ねよな。うぜー」
6畳の狭い部屋の真ん中にある、小さめのこたつにいつもと同じく向かい合って座って
ため息混じりに俺が愚痴ると
『賑やかで羨ましいよ。僕は正樹の家族はみんな大好き』
瑞季が当たり前のように言う。
「そっかあ?一緒に住んでみろよ、うるさくてたまんねーぞ」
『いいね、それ。そしたら正樹とも毎日一緒にいられるし 楽しいだろうな』
無邪気な笑顔を向けられて、俺は一瞬言葉が詰まった。
「今日も瑞季のかーちゃん、夜勤か?」
『うん』
「ひとりで飯食ったのか?」
『うん』
瑞季の両親は早くに離婚して、今は看護師の母親と二人暮らし。
以前は母親が夜勤の時はよくウチで一緒に晩飯を食べて
そのまま泊まったりしていた。
「前みたく、ひとりの時はウチに飯食いに来たらいいんだぞ。
その方がオカンもねーちゃん達も喜ぶんだし。遠慮すんな」
そう言葉にしておいて、瑞季がここに来なくなったのは
俺がこいつを避けてたせいだよな、と気付いて何だか後ろめたい気持ちになる。
そんな俺の気持ちに気付いているのか
瑞季は少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべた。
だから俺の言葉に素直に頷くと思ったけれど、その答えは予想とは違った。
『ううん。もう高校生だし、ひとりで寂しいとか怖いとか思わないし
大丈夫だよ。それより』
大きくて黒目がちな目が俺をまっすぐ見る。
『高校入ってから、正樹が僕の方からこうやって来ないと
会ってくれなくなった事の方が寂しい。
外で偶然会ってもそっけないし。
……ねえ、最近どうして僕を避けるの?』
どくん。
痛いくらいに鼓動が跳ねた。
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