1 contorting

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 言うが早いか、白い手に頬をとられて口づけられていた。抵抗はない。触れるだけの口づけは短く、雨に濡れているはずなのに妙に熱かった。  雨ではないものに湿った音を残して唇が離れていく。間近で血の色の瞳に見据えられて、冷え切った体の中で何かが震えた。その瞬間暁は彼のものになった。 「どうして飛び降りたの?」 「人を殺したんだ」 「心中?」 「いいや。僕を捨てようとしたから殺した。殺したはいいけれど後処理が面倒で、もう死んだほうが楽かなって」 「君はその人を愛していたの?」 「うん。僕を愛してくれる人はみんな愛してる」 「殺して後悔してる?」 「ううん。僕を愛してくれないなら要らない」 「そう。死体は?」 「そのまま。じきに見つかるよ」 「そう。じゃあ消さなきゃね」  彼はセシルと名乗った。セシルは背が高く、顔だけでなく体躯も美しい。背の中ほどまで伸びた髪も、雨に濡れてしっとりと艶を含んでいた。こんなに美しい人を暁は産まれて初めて見た。 「消すの?」 「ああ、消すさ」  二人揃ってびしょ濡れのまま、屋上から屋内へと入る。カーペットを敷き詰めた床にぼたぼたと雨滴が垂れた。     
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