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リコ、という名前はアオの両親がつけた。
決して裕福な家庭ではなかったが、アオの両親は幼いふたりの子どもを、分け隔てなく育てた。
そんな生まれのせいか、リコは幼いときから身体が弱く、よく熱を出した。
ーーアオ、きょうは何をしたの? 学校でどうだった? 何をしてあそんだ?
アオが学校から帰ってくるたびに、幼いリコは熱でその顔を真っ赤にさせながらも、瞳をキラキラとさせて、兄の話を聞きたがった。
ーーリコは? リコはどんな一日だった?
同じくまだ子どもだったアオが訊ねると、リコは少しだけ恥ずかしそうにして、けれど弾けるような笑い声をあげた。
愛情あふれる家庭だったと思う。
両親が亡くなったのはいまから四年前、アオがいまのリコの歳のころのことだ。交通事故で、相手は酔っぱらいの居眠り運転だった。
警察から連絡があったとき、アオは病院の霊安室で、変わり果てた姿の両親と対面した。
ーーアオ?
指でアオのシャツの裾をつんつんと引っ張り、不安そうな声で自分の名前を呼ぶリコを、アオはぎゅっと抱きしめた。
自分がこの小さな弟を守らなければ・・・・・・。
両親を亡くしたことへの悲しさや寂しさは、いきなり押し寄せてきたさまざまな現実問題によって、感じている余裕はアオにはなかった。必死だったのだ。幼い弟を抱えて、まだ学生にすぎなかったアオは一足飛びに大人になるしか方法はなかった。
両親はふたりの息子にいくばくかの金を残してくれたが、計算すると大して持たないことがわかった。
まずアオは学校を辞め、両親との思い出が残る家を出ると、安いアパートを借りた。リコを施設に預けるという選択肢は最初からなかった。たとえ血なんか繋がっていなくても、アオにとってリコは掛け替えのない兄弟であり、唯一残された大切な家族だった。生活は苦しいながらも、ふたりだけの生活は順調にいっているように思えた。翌年、アオが初めての発情期を迎えるまではーー。
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